ローソンデジタルイノベーション テックブログ

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データ分析:販売好調のローソン限定「天下一品監修ラーメン」。近くに天下一品の実店舗があるのとないので売上に影響はあるか?

こんにちは、データ分析チームのIです。

弊社ローソンデジタルイノベーション(LDI)にはデータ分析チームも存在しており、普段はローソンのデータ分析部門やマーケティング部門と連携しながらお仕事をさせていただいております。ローソン店舗では1000を超える多種多様な商品を、1万を超える多くの店舗で扱うため、日々多くの販売や仕入のデータが蓄積されています。扱えるデータは大量にあり、分析が好きな人間にとっては非常に魅力的な環境です。今回の記事は技術的には目新しい内容はありませんが、ローソンの販売データを用いると、分析アイデア1つで、こんなこともできますよという事例を紹介させていただきます。

1. キンレイ「天下一品監修ラーメン」

本記事ではローソンで取り扱っているキンレイ社製「天下一品監修ラーメン」を取り扱っています。

本商品は、天下一品様の監修のもと、あの「こってり味」の再現を目指した冷凍商品です。SNS等でも「再現度が高い」と話題になり、2023年の2月14日に販売開始後で、ローソンの冷凍食品カテゴリにおいて売上点数ベースで3位、金額ベースでは1位という大変ご支持をいただいている商品です。 私自身も天下一品様の「こってり味」は大好きでして、勤務地である大崎から1駅歩いて隣の五反田店まで食べに行くこともあります。ただ在宅勤務の場合、自宅近くに実店舗がなく、食べたいときに食べられるものではなかったのですが、この商品のおかげで手軽にあの味が食べられるうえに、冷凍食品なので保存も効くということで大変重宝しております。

本記事ですが、天下一品様の実店舗(以下、天下一品店舗)と、ローソンの実店舗(以下ローソン店舗)までの距離の関係によって、「天下一品監修ラーメン」の売上に影響を与えるかに着目しました。直感的には天下一品店舗より遠いローソン店舗の方が、お客様が興味をもって購入していただけるかもしれません(仮説①)。一方で近いローソン店舗の方が、馴染みのある味を気軽に食べられるということで、購入していただけているかもしれません(仮説②)。また店舗間の距離は大きく影響を与えていない可能性もあります。

図1 天下一品の店舗とローソンの店舗の距離によって売上に差があるか?

次節より上記の観点から分析を進めていきます。

2. 分析手法

分析は以下の手順で実施しました。技術的な詳細については特段難しいことをしていないので細かな手法については省略します。

2.1 天下一品店舗の住所情報取得

まずは天下一品様のWEBサイトより、実店舗の住所情報を取得します。天下一品店舗ですが、データ取得時点(2023年5月末)では全部で224店でした。創業本店が京都という影響もあって西日本には多くの店舗が存在しており、特に近畿圏に100店舗以上が営業されているようです。一方、信越、東北以北では未出店の都道府県が目立ちます(図2)

図2 天下一品様の店舗がある都道府県

取得した住所情報は、後ほど分析で扱いやすくするため緯度経度情報に変換しておきます。

2.2 ローソン店舗から最も近い天下一品店舗の特定

天下一品店舗と、ローソン店舗をマージして、互いの緯度経度情報から、直線距離を算出します。各ローソン店舗から最も近い天下一品店舗を特定し、ローソン店舗毎に最も近い天下一品店舗までの最短距離を調べておきます。最短距離のヒストグラムは図3のようになります。

図3 最短距離のヒストグラム

距離100km圏内に集中しており、ヒストグラムを見やすくするため、距離は常用対数をとってみたものが図4です。

図4 最短距離のヒストグラム(横軸常用対数)

これを見ると1kmから10km圏内がボリュームゾーンであることが分かります。160kmを超えるところにも多数の店舗ありますが、ほとんどが北海道のローソン店舗でした。天下一品店舗の北限が、秋田県大仙市の大曲店のため、このような結果になっています。 天下一品店舗まで最も近いローソン店舗は、東京都町田市にある原町田六丁目店で、その距離は30m弱。最も遠い店舗は北海道の紋別雄武町店でその距離604kmでした。

2.3 ローソンの売上と比較

次に「天下一品監修ラーメン」の販売状況を調べます。ローソンで「天下一品監修ラーメン」が販売開始された2023年2月14日から直近2023年6月15日まで、店舗別に売上総数を取得します。 ただし単純な売上総数では店舗規模や営業日数による影響が大きく出てしまいます。店舗改装などにより営業日数が少ない場合、どんなに「天下一品監修ラーメン」の売上が良くても、他の店舗と比べると実数は小さくなってしまいます。またコンビニエンスストアは立地や店舗規模により期待される売上は大きく異なります。これらの影響を除外することを目的(規格化)に、同じ期間の冷凍食品カテゴリ全体の売上個数も取得し、「天下一品監修ラーメン」が冷凍食品カテゴリに占める売上構成比にしておきます。この売上構成比が大きいほど、「天下一品監修ラーメン」が良く売れていることを示します。

実際に分析に用いたデータについては外れ値の除去を目的に、以下の処理を行いました。

  1. 冷凍食品カテゴリの売上が極端に低い店舗については分析から除外しました。これは極小店などで、店舗が冷凍食品を扱えるスペースが限られているなどの場合を想定したもので、このような場合は一般的な売れ方と異なることが予想されるためデータから除外しました。
  2. 「天下一品監修ラーメン」の売上個数が0個の店舗も除外しました。売上が0の場合は、店舗側がそもそも仕入れを行わなかった、行えなかったケースが考えられ、実際の需要を反映してないことが想定されます。売上数は仕入数を超えることはないため、店舗単位での需要を考えるときはこの仕入数制約を考慮しておく必要があります。この点について、いつか技術ブログ内で改めて取り上げたいと考えています。

上記の処置により最終的に分析対象として使ったのは12,087店舗となりました。

以上でデータが揃ったので、距離と売上の関係性を見ていきます。

3. 距離と売上の関係

天下一品店舗とローソン店舗の最短距離と、「天下一品監修ラーメン」売上構成比をプロットしたものが以下の図5です。横軸が距離を示しグラフ右側に行くほど店舗間の距離が離れていることを示します。縦軸が売上構成比で、グラフ上側に行くほど「天下一品監修ラーメン」の売上が好調であることを示します。なお縦軸の数値目盛は、情報開示制限の問題で消しておりますが下限は0です。

図5 最短距離と売上構成比の関係

400km超に点が集中しているのは札幌市、500km超に集中しているのは旭川市に立地するローソン群です。このままだと多数を占める200km圏内に集中している多数の店舗の状況が分からないので、先ほどと同様に距離については常用対数をとって再表示したものが図6です。

図6 最短距離(横軸常用対数)と売上構成比の関係

これでみても、売上傾向のばらつきが大きく距離との関係性ははっきりと見えてきません。そこで100店舗ごとに移動平均をとって青線で表示したものが図7です。

図7 移動平均化表示

移動平均は図中赤縦線で示した距離160kmを超えるまでは、ほぼフラットになっており、距離と売上構成比には明確な関係はないように見えます。160kmを超えると急激な減少しているのが分かります。該当店舗のほんどが北海道であり、もしかしたら北海道の方はこってり味に馴染みがないため、あまり手に取ってもらえてないのかもしれません。

160km圏内に絞った場合でも、売上構成比と距離の関係は大きくばらついており、距離と売上構成比で単回帰を行ってもR二乗値が0.1以下で関係性はみられませんでした。この辺りは、ローソン店舗の立地条件、客層などの共変量を追加することで傾向は見えてくる可能性はありますが、今回はそこまでは突っ込みません。

なお売上構成比0%近傍に一定数存在しており、こちらは仕入数の制約により販売が伸びなかった可能性もあります(図8の赤囲み部分)。観測される販売データは仕入数以上より大きくなることがありませんので、店舗側がリピート発注をしなかった場合、品切れ等により潜在的な需要と乖離することが予想されます。もし詳細に分析するのであれば仕入数制約も考慮しないといけませんが、こちらも今回はそこまでは突っ込みません。

図8 売上0近傍に集中

4. まとめ

今回はアイデア一発勝負で、実店舗を持つチェーン店舗までの距離と売上の関係性を調べてみました。距離が長くなると売上が下がる傾向もわずかにありそうですが、それ以外の要因による変動が大きく、距離に関係なくよく売れていると考えた方が現時点では良さそうです。

本記事のようにLDIではローソンの様々なデータにアクセスしていろんな分析ができる環境があります。培った分析技術を活かしたい方は、LDIデータ分析チームは一緒に働いていただける方を募集しておりますので、是非ご参加いただければと思います。